―プロローグ―


―――何で…何で僕だけ。

声が聞こえる。
幼い子の切ない心の叫び声。
でもそれも、もう過去の話。刹那の声から運命は大きく歪んで、動き出す。
そんな事、誰もが夢にも見なかった。




From the painful




あの声から八年。黒髪に真紅の瞳を持つ青年は、静かな街を一人歩く。
人通りが少ない道を只管にあるき、ほの暗い外路地を抜け、角を数回曲り青年は隣街へ。
その場所には人も、店も、遊ぶ場所も沢山あって、常に音が絶えない場所。
騒がしい環境に包まれるように同化して、何時ものように此処で遊ぶ。
これが彼の日常。
―――だけど、今日は違った。
ただ、ぼんやりと空を見上げて歩いていると、ドンと鈍い音がした。
その音が鳴ったほうへと視線を傾ければ、小柄で可愛らしい面持ちの幼さ残る少年がぶつかってきた。
―――まるで、少女のような。
そう思わせる端正な顔立ちの、その少年は此方を見上げては、じーっと視線を離さない。



一度はそこから視線逸らしてみるも、再び戻せば未だ向けられたままの視線。
少し困ったような表情しては、相手と視線を合わせようと、
小柄な少年の肩に軽く手を置いて静かにしゃがんで目線を合わせる。

「前見てたのか? お前」

そう訊ねてみるも、返答はない。
少年はただ、此方を見上げ、視線を逸らそうとしないだけ。
そんな状況に居づらくなれば、目の前の小柄な少年の頭をポンッと撫叩き、此方は立ち上がってしまおうか。
そして再び口を開き、別れの言葉を―――。

「ま、良いけどよ。今度からは気を付けろよ?」

再び歩みを進めながら、風に流すように呟いてみせた。
その言葉は少年に聞えたかどうかは解らない。
―――流れ流れて、流されて。
小柄な少年と紅い瞳が印象的な青年は互いに別の方向へと歩んでいこうか。
この時はまだ誰も気付いていなかった…この出会いから、歯車は周りだすと。
―――この出会いは未だ序章。





そう、此処から始る
       From the painful